「温める」をちょっと書いてみます。

先日、浅見さんと栗本さんを空港までお送りする途中の車内で「からだを温めると赤くなるところと白くヌケるところがある~ほっとタオル」の話題になった(少しだけど)ので、「温める」をちょっと書いてみます。

まずは生理学的な部分から。

温度感覚には温点と冷点が

・温点・・・1cm2あたり1~4個
・冷点・・・1cm2あたり3~15個

あります。

それぞれ温・冷受容器からAδ・C線維によって脊髄~脳に刺激が伝達されます。

皮膚温が32℃程度では外界の温度を感じなくなり(不感温度)、45℃(43℃)以上の高温、10℃以下の低温では、温・冷受容器ではなく痛覚受容器が興奮し信号を送るため「痛み」と認識されます。

次に理学療法の部分

ほっとタオル、お風呂など「温める」は温熱療法です。

家庭用赤外線治療器なども同様です。

ほっとタオルは表在温熱で熱エネルギーの伝わり方は「伝導」。
※伝導・・・温度の異なる物体が接することで、物体間で熱が移動した結果、温度が上昇する

生理学的な効果は、全身反応と局所反応に分かれており、

・全身反応・・・体温調節機構、温度受容器、呼吸・循環作用
・局所反応・・・代謝機能の変化、末梢血管反応、神経・筋・結合組織(コラーゲン繊維)
・免疫システムに対する影響

となっています。

温熱療法にも色々な反応があって、それは以下の通り

【熱の移動と物質の温度変化】

・温かい物質と冷たい物質それぞれから赤外線エネルギーが出ている。
・温かい物質から放出された赤外線エネルギーが冷たい物質の分子運動を盛んにするため物質の温度が上昇し、冷たい物質は温められる。
・温かい物質から放出される赤外線エネルギーよりも、冷たい物質から放出される赤外線エネルギーの方が小さいため、温かい物質の分子運動が低下し、結果的に温かい物質の温度が下がる。

【表在性温熱療法の深達度】

皮下数cm。※ホットパックでは深層部(皮下3cm)だと、ほとんど効果なし。

【シャント(シャンティング)機能】

組織損傷(火傷・熱傷)の危険性がある部位の血流量を増加させ、他の部位の血流量を抑える機能。(生体の防御反応のひとつ)

シャント機能には「皮膚血管の動静脈吻合部(局所反応)」と「深部循環と皮膚循環(全身反応)」がある。

【皮膚血管の動静脈吻合部のシャント機能】

皮膚には、末梢組織内に分布する毛細血管とはことなり、動静脈吻合と言われる動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながる太い連絡路がある。

この連絡路は通常時は閉じているが、加温により解放し血流量を増やし、熱の放散を促進する。

【ダストル—モラーの法則(深部循環と皮膚循環のシャント機能)】

深部循環と皮膚循環のシャントは、加温によって上昇した体温を低下させるため、内臓などの深部循環の血液を皮膚へ移動させて、体外に熱を放散させる仕組みのこと。

※全身の血液量は一定のため、この法則により、腹部を温めることにより胃や腸の運動や血液量が低下することで胃腸の機能が低下したり、全身の加温によって腎臓の血流が減少したりすることもある。

【ファント・ホフの法則】 

組織温度が10℃上昇すると、代謝率は2~3倍に増加する。または1℃上昇するごとに約13%増加する。

【反射性血管拡張作用】

身体のある部分を加温すると、他の部位の血管が拡張して循環が増加する現象。

【紅斑】

温熱適用後にみられる「まだら状の紅斑」は、皮膚血管の拡張によるもの。温熱を中止すると自然と消失するが、そのまま温熱を持続すると、血管外に漏出した赤血球が壊れて大理石様紅斑が生じる。この紅斑は色素沈着として残りやすい。

効果的な温熱エネルギーの与え方、物理療法上では

「組織温度が痛みに耐えられるレベルよりもわずかに下がった点で最大に達して、その後治療レベルで望ましい時間にとどまるように保つこと」

となっています。

組織温度が痛みに耐えられるレベルは、43℃(45℃)以下。

理由として考えられるのは、「43℃(45℃)以上の熱は「痛み」として認識される」そして「地表に生息する動物の細胞は42.5℃以上の温度に長時間さらされると細胞死する」から。

望ましい時間

これはほっとタオルに当てはめると15分から30分

効果としては

【血流】

・体性ー内臓(自律神経)反射による血管の拡張

・軸索反射による血管の拡張

・表層皮膚静脈の弛緩

つまり血流が増える

【末梢神経】

神経の伝導は「温度に依存」しているので、温度が低下すると信号の伝わり方は遅くなり、6~7℃では伝わらなくなります(神経伝導ブロック)

逆に、温度が高くなると信号の伝わり方は速くなりますが、40℃以上の温度になると遅くなります(熱麻酔)。

【筋などの軟部組織と関節】

筋肉が弛み伸びやすく、関節の動きもよくなります。

【筋力・筋持久力】

筋肉内温度を安静時より3℃上昇させると筋力も上昇し、温度が低くなると、1℃低下するごとに2~5%筋力が低下すると言われています。

筋持久力は、温めると低下し、冷やすと向上すると言われています

つまり、筋肉の温度が高くなると筋力はアップするけど持久力は低下し、筋肉の温度が下がると筋力はダウンするけど持久力は上がるってこと。

【内臓】

・体性ー自律神経(内臓)反射の影響を受ける。

・侵害刺激(温かいではなくて痛い!)を加えることで交感神経系が優位になり、非侵害刺激(温かくて気持ちがいい)で交感神経活動が抑えられ、血流が改善

つまり温熱刺激の加え方で、内臓を整えることができる

以上、これが科学的・生理学的な部分となります。

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民間療法では、温泉、ほっとタオル(蒸しタオル)、焼き塩、お灸、足湯、肘湯など「温める」が活用されますが、

・温かくて気持ちのよい温度で温める
・「熱い!(ときには痛い)」刺激を加え、冷めたらまた熱くするを交互に行う

おおまかに、この2つの方法が行われます。

身体に刺激が加わったときの反応は、先に書いたものに当てはめて考えてもらえば分かると思います。

民間療法で行われる「温める」には「科学・生理学では説明できないけど実効性がある」という部分が多いです。

でも、「からだの感覚を取り戻す」も「コンディションを整える」も非科学ではありません。

その理由は、「その身体に起こっている反応を、どう感じ取るのか?」は本人次第なだけであり、その本人の身体で起こっている反応は上記の通り科学的・生理学的な部分で説明できるからです。

末梢神経への働きかけ(刺激)を行うことで中枢神経にも可塑的変容が起こります(受動的)
中枢の働き(反応)により末梢もまた反応します(能動的)

それが神経が発達するということであり、からだが育つということです。

例えば「足湯」をすると、ちゃんと赤くなる部分と白くヌケる部分があることに気付きます。

右足は赤くなるけど、左足は赤くならないなど左右差がでることも不思議ではありません。

それを科学・生理学で判断したければ、そこに当てはめてみればいいですし、民間療法の知見を活用し「まだ上手く使えていない所があるな」「冷えが凄いな」「バランスが悪くなっているな」「力が抜けていないな」などと捉えるのもいいでしょう。

結局は「それぞれがどう解釈するか?」なのですから。

ただ、僕個人としては、「何か疑問が生じたら、生理学的、機能的な部分を考える」ことが大事だと思います。

現実的にからだに起こっている反応は、その部分の特性を抜きにしては話が出来ないから。

そこを理解したうえで知見を活用する。

このバランスが大事だと思います。

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