痛覚変調性疼痛nociplastic pain (痛みの原因別種類【UG版】)
こんにちは。
金田です。
かねた整骨院のブログへようこそ。
今回は、皆さんに知っておいてほしい新しい痛みの種類「痛覚変調性疼痛nociplastic pain」について書きます。
これは、過去に書いた、「痛みの原因別種類」のアップグレード版となります。
痛みの種類
これまで痛みは
- 侵害受容性疼(nociceptive pain)
- 神経障害性疼痛(neuropathic pain)
- 心因性疼痛(psychogenic pain)
に分類されていました。
侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の定義では説明できない痛みは、「いわゆるストレスなどの心理的な要因が大きく影響している」とされ心因性疼痛と呼ばれていました。
ですが、痛みの研究が進むことで「もうさ、痛みを体が原因か心が原因かの2つで分ける考え方って時代遅れだよね」ということが分かってきたので、現在、心因性疼痛という言葉は使われていません。
そこで、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の定義に当てはまらない、痛みの訴えや症状を表現するための用語の選定作業が行われ、nociplastic painという用語が選ばれました。
nociplastic painを直訳すると、「侵害・可塑性疼痛」「侵害受容可塑性疼痛」となりますが、日本痛み関連学会連合が「それだと、みんな混乱するよね?」となり、痛覚変調性疼痛という日本語訳になりました。
この「痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)」は、この先、民間療法を提供している治療家が施術を行う上でも、痛みでお悩みの方が治療や施術を受ける上でも、とても大事になるので、今一度、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛の定義を確認していきたいと思います。
侵害受容Nociception
侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛の違いを理解するとき、「侵害受容」という用語が鍵になりますので、まずは、侵害受容を説明します。
侵害受容は、侵害刺激を符号化する感覚神経系のプロセスになります。
侵害刺激とは、「身体が傷つくような刺激」のことで、身体が傷つかないような軽い刺激は非侵害刺激と言います。
身体に侵害刺激(身体が傷つくような刺激)が加わると、侵害刺激を符号化できる侵害受容器が興奮し、符号化された情報は末梢神経を伝わり、脊髄を通過し脳に伝わり、脳が情報を読み取り痛いと感じます。
符号化の結果、自律神経反応や行動が引き起こされますが、必ずしも痛みが起こるとは限りません。
侵害受容性疼痛とは
侵害受容器(高閾値侵害受容器やポリモーダル受容器)が興奮することで起こる痛みのことです。
例えば、どこかをぶつけたり、刃物で傷つけたりしたときに起こる痛みで、私たちが日常生活で「痛い」と感じるときは、基本、侵害受容性疼痛です。ようするに、デフォルトの痛みになります。
運動した後の筋肉痛も侵害受容性疼痛になります。
侵害受容性疼痛は、IASPの定義において2008年の「痛みの京都議定書」で初めて登場し、2011年には、神経障害性疼痛でみられる異常な機能と対比して改訂されました。
侵害受容性疼痛の2011年の定義に変更はありませんでしたが「正常に機能する体性感覚神経系における痛みを記述するもの」という註釈を加えることが提案されました。
神経障害性疼痛とは
痛みを伝える侵害受容器や末梢神経、脊髄、脳などの痛覚伝導路を含む体性感覚神経系の損傷や疾患によって生じる痛みになります。
外傷やウイルスなどが原因となり、神経そのものが痛んだために痛みを引き起こしている状態になります。
例えば、帯状疱疹後神経痛、幻肢痛、脊髄損傷後の痛み、脳卒中後の痛みなどがあります。
神経障害性疼痛は機能障害を含み、先に説明した侵害受容の機能変化も含まれます。
デフォルトの痛みである侵害受容性疼痛とは異なり、一般的な痛みではありません。
IASPの定義において侵害受容性疼痛よりも早く1994年に登場しました。
神経障害性疼痛の2011年の定義を修正する必要はないとの結論に至っています。
痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)
はじめにも書きましたが、
- 心因性疼痛という表現は時代遅れ
- 侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛は定義されていて、その定義に当てはめると、「神経の損傷がなければ侵害受容性疼痛になるよね?」となるが、侵害受容器の関与も認められない患者さんが存在する
- 侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛以外の、第3の識別用語が必要
ということになり、痛覚変調性疼痛(nociplastic pain)ができました。
痛覚変調性疼痛は、「侵害受容の変化によって生じる痛み」になります。
定義は、「末梢侵害受容器の活性化を引き起こす実際のまたはその恐れのある組織損傷の明白な証拠,または痛みを引き起こす体性感覚系の疾患または病変の証拠がないにもかかわらず,侵害受容の変化によって生じる痛み」になります。※注記:患者が侵害受容性疼痛と痛覚変調性疼痛を同時に示すこともありうる
簡単にいうと、「組織の損傷はないし、神経にも異常がないんだけど痛い」という痛みで
- 神経に異常はないけど神経に感作が起きて刺激に敏感になっている
- 元々身体に備わっている鎮痛システムである下行性疼痛抑制系の働きが弱っている
などが考えられています。
痛覚変調性疼痛は、痛みへの恐怖、不安、怒りやストレスなど、社会心理的な要因が大きく関係すると考えられていて、それらが偏桃体などに影響を及ぼし、脳機能や神経回路が変化し、痛みを長引かせ悪化させると考えられています。
ICD-11における慢性疼痛分類としての慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛の分類に反映されていて、慢性一次疼痛のサブグループのほとんどが、痛覚変調性疼痛を伴う疾患で構成されていいます。
- 線維筋痛症
- 複合性局所疼痛症候群1型
- 過敏性腸症候群
などの慢性疼痛疾患は、典型的な痛覚変調性疼痛の疾患例となります。
まとめ
国際疼痛学会(IASP)によって、侵害受容性疼痛(nociceptive pain)と神経障害性疼痛(neuropathic pain)の定義では説明できない痛みのメカニズムとして「nociplastic pain」という用語が導入されました。
nociplastic painは直訳すると、「侵害・可塑性疼痛」「侵害受容可塑性疼痛」となりますが、日本痛み関連学会連合が「それだと、みんな混乱するよね?」となり、痛覚変調性疼痛という日本語訳になりました。
現在、心因性疼痛という言葉は時代遅れなので使われていません。
ですが、恐怖、不安、怒り、ストレスなどの社会心理的な要因が大きく関係していると考えられています。
今後は、この「痛覚変調性疼痛」が、医療機関での治療でも、民間療法を提供している治療家が施術を行う上でも、痛みでお悩みの方が治療や施術を受ける上でも、とても大事になってきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。