むち打ち
【むち打ち】
むち打ちは、追突されたり(交通事故)、スポーツや日常の生活で首に対して急な負荷がかかることで、首の痛みや運動の制限の他に、頭痛、肩こり、首こり、重苦しさ、吐き気、めまい、耳鳴り、冷や汗、腕や手のかけての「しびれ」や「だるさ」、集中力の低下、記憶の障害などなど、様々な症状が出現する場合があることがわかった。
で、このような病態の総称を外傷性頸部症候群と言って「むち打ち関連障害(WAD:whiplash associated disorder)」とも呼ばれ、首が鞭がしなるような状態に強いられることから1928年にCroweにより「むち打ち損傷(whiplash injury)」と報告された。
むち打ち損傷の多くの症例では、レントゲンやMRIなどの画像検査で異常が見当たらないことが研究によりわかってる。
画像で異常は見つからないのに色んな症状が出現するって、何か腰痛に似てるな。
幸いなことにむち打ちにも腰痛と同じように診断などで活用できる「ケベックWAD重症度分類」というものがあるので、それを参考にさせてもらいながら、またちょっと考えてみる。
ケベックWAD重症度分類では「グレード」「臨床所見」「推定病理」「診断」と4つの項目に分かれている。
グレードは0からⅣまであって、臨床所見などはそれぞれこうなっている。
◆グレード0
・臨床所見・・・頸部に訴えがない
理学的所見がない
・推定病理・・・頭痛、吐気、嘔吐、不安感、不眠などが、後から出現することもある
・診断・・・・・外傷性頸部症候群
◆グレードⅠ
・臨床所見・・・頸部の痛み、コリ感、圧痛あり
理学的所見がない
・推定病理・・・顕微鏡レベルの頸部筋・靭帯の損傷(微小損傷)
筋スパズムをおこすほどではない
・診断・・・・・外傷性頸部症候群
◆グレードⅡ
・臨床所見・・・頸部愁訴あり、圧痛あり
頸部の可動域制限あり
・推定病理・・・頸部捻挫、軟部組織周辺の出血
軟部組織挫傷による筋スパズム
・診断・・・・・外傷性頸部症候群
◆グレードⅢ
・臨床所見・・・頸部愁訴あり
神経学的異常(感覚障害、筋力低下、深部腱反射減弱・消失)
・推定病理・・・機械的損傷あるいは出血・炎症による神経組織の損傷
・診断・・・・・外傷性頸髄・神経根症状
◆グレードⅣ
・臨床所見・・・頸部愁訴あり
脊髄の脱臼、骨折を認める
・推定病理・・・重篤な脊髄および神経組織の挫傷および損傷
・診断・・・・・外傷性頸髄・神経根症状
※すべてのグレードにおいて、めまい・耳鳴り・頭痛・記憶喪失・嚥下障害・顎関節痛が出現する可能性がある
となっている。
つまり、神経組織の損傷(深部腱反射の減弱や消失、脊椎の脱臼や骨折を認める)であるグレードⅢ・Ⅳは、神経の障害だから頸部の脊髄症のように、時として手だけじゃなくて下半身や膀胱などにも神経麻痺症状が伴うだろうし、酷いときは半身不随みたいになっちゃうときもあるはず。
なので、柔道整復師である僕が日常的に施術に携わっているのはグレード0〜Ⅱの患者さん。
ケベックWAD診療ガイドラインに基づいた治療の推奨グレードをみてみると、治療としては、患者さんの心理的社会的状況を考慮しながら、
■安心感を与える
■患者さんに痛みやむち打ちの事を正しく知ってもらう
■可能な限り早期に日常の生活へ復帰してもらう
■ストレッチや可動域訓練
■安静にし過ぎない
■受傷後3か月以降になって抑うつ傾向が強い場合、心理療法や抗不安薬の処方、集学的アプローチを検討となっている。
その一方で、頸椎カラー(首のコルセット)は不要、もし装着する場合でも4日以内、消炎鎮痛剤(痛み止め)は基本的に使用しない、痛みが強い場合でも必要最低限にとどめる。というように、昔から常識とされてきた治療法は推奨されていない。
で、患者さんの心理的な要因、おかれた環境など(社会的要因)によっても症状の内容や程度が多彩に変化するため、診断や治療に苦慮することが多いとされている。
つまり、red flagsが無い場合、回復を妨げる要因は心理・社会的要因(yellow flags)ってことだ。
いずれにしても神経(脊髄や馬尾)がダメージをうけると“麻痺”が出現するから、それは絶対見逃さないようにしながら、正しい情報を提供したりしながら安心してもらうことを最優先し、過度の安静を控えるようにして、できるだけ今まで通りの日常生活を維持して頂きながら、しっかりアプローチすることが大切ってこと。