モーターコントロールエクササイズと慢性腰痛
こんにちは。
「世界が注目してする腰痛改善メソッド」としてテレビでも紹介されたモーターコントロールエクササイズ。
ネットをみると、「モーターコントロールエクササイズで腰痛改善!!」といっている整体、整骨院、ピラティス関係の方々がいます。
なかには、「モーターコントロールエクササイズ=ピラティスなので、ピラティスで腰痛は改善する」といっている人もいます。
ですが、科学的根拠のあるデータを集めたガイドラインなどをみても、「モーターコントロールエクササイズで腰痛が改善する」とはどこにも書かれていません。
そして、ピラティスを行うことでモーターコントロール(運動制御)になるとは思いますが、ピラティス=モーターコントロールエクササイズではありません。今後はモーターコントロールエクササイズに分類されていくかもしれませんが、今はどちらかというと、ヨガや太極拳同様に、マインド・ボディ・エクササイズに分類されています。
今回は、モーターコントロールエクササイズと慢性腰痛について書きます。
▼参考にしているもの
慢性の痛み情報センター
https://itami-net.or.jp/
腰痛診療ガイドライン2019 改訂第2版
Low_back_pain.pdf
慢性疼痛診療ガイドライン
診療GL01_日本語.pdf
▼かねた整骨院の過去記事
マインド・ボディ・エクササイズと慢性疼痛
http://kanetaseikotsuin.com/mind-body-exercise/
一般的な運動療法の有効性
http://kanetaseikotsuin.com/exercise/
モーターコントロールとは
モーターコントロールエクササイズのモーターコントロールは「運動制御」という意味になります。
専門書には「運動の幹的メカニズムを統制もしくは指揮する能力」と定義され、そして「運動するために必要なさまざまな機構を調整する能力である」と書かれています。
モーターコントロールエクササイズ(MCE)とは
モーターコントロールエクササイズ(MCE)ですが、慢性疼痛診療ガイドラインには、
「広義には姿勢や運動制御の改善を目的としたトレーニングとされるが、一般には、脊柱の安定性と制御向上を目的として、腹横筋や多裂筋など体幹深層筋群と脊柱起立筋や腹直筋などの体幹表層筋群を協調的かつ効率的に活動させることを促すようなトレーニングを指すことが多い」
と書かれています。
一般的に解釈されている部分だけをみると、体幹トレーニングやピラティスっぽくみえますが、モーターコントロール(運動制御)エクササイズというのは、
立つ、座る、歩く、走る、手を動かす、前かがみになる、寝る、物を操作する、食べる、コミュニケーションをとる、働くなど、私たちが生きていく中で必要な動き(目的とする運動)を、自分の思い通りにできるようにする(制御する)
というものです。
運動も運動の制御も、「脳・脊髄と筋肉や関節とのやりとり」になります。
そして運動は、
- 運動を行う人(個体)
- どのような運動を行うか(運動課題)
- 運動を行う環境(環境)
の相互作用から成り立っています。
モーターコントロールエクササイズは慢性疼痛に有用か
これも、慢性疼痛診療ガイドラインをみると、
「モーターコントロールエクササイズは、無治療や一般的な運動療法と比べて、慢性疼痛患者の痛みおよび機能障害の改善に有用である。また、包括的な生活の質の向上(QOL)について、無治療に比べると有用であるが、一般的な運動療法と比べると大差はないと考えられる」
と書かれています。
モーターコントロールエクササイズで腰痛は改善するとは書かれていません。
推奨度やエビデンス総体の総括は、
- 推奨度:2(弱) 施行することを弱く推奨する(提案)
- エビデンス総体の総括:C(低い)
であることからも、あくまでも選択肢の一つであり、魔法のようなエクササイズではないことがわかりますね。
モーターコントロールエクササイズは腰痛に有効か
これも、慢性疼痛診療ガイドラインをみると、
「モーターコントロールエクササイズ(MCE)の効果を検証した16件のRCTを用いてメタアナリシスを実施した。対象は、18歳以上の慢性腰痛、慢性頸部痛患者で、比較対象は無治療(待機群、通常治療群を含む)、一般的な運動療法、徒手療法とした。その結果、MCEは無治療や一般的な運動療法徒手療法と比べて高い鎮痛効果と機能障害の改善効果が認められた。ただし、徒手療法との比較については採用されたRCTが1つしかなく、エビデンスの確実性が低いため留意する必要がある。また、包括的なQOLの向上について、MCEは無治療と比べると有効だが、一般的な運動療法と比べると大差はない。」
そして
「MECに関するRCTの多くは慢性腰痛を対象としており、慢性頸部痛を対象としたRCTは少ない・・・・(※慢性腰痛と関係がないので中略)、またMECによる鎮痛効果や機能障害の改善効果は、一般的な運動療法のそれらより高いが、そのエビデンスの確実性は低い。したがって、慢性疼痛治療において運動の種類を選択・決定する際には、患者の好みや費用、安全性などから総合的に判断することが推奨される」
と書かれています。
つまり、「一般的な運動療法(有酸素運動や筋トレなど)や徒手療法よりは効果があるけど、まだ全部分かってないので、あくまでも選択肢の1つですよ」ってことです。
これも、やはりどこにも「モーターコントロールエクササイズで腰痛は改善する」とは書かれていません。
運動は大事です
モーターコントロールエクササイズをやれば必ず腰痛が改善する訳ではありませんが、慢性腰痛を改善させていくためには
- 運動療法
- 心理療法(認知行動療法など)
- 集学的アプローチ
- 患者教育
などが大事だと言われています。
自分の好み・生活スタイルなどに合わせて、モーターコントロールエクササイズを含めた何かしらのエクササイズを行っていただいた方がいいと思います。
自分でもしっかり考えることが大事です
整体や整骨院、そしてピラティスなどのボディワークを商売にしている一部の人は、科学的根拠という言葉や専門用語、お客様の声や自分の体験談などを使い、商品がより魅力的にみえるように、販売する側に都合の良い情報だけを引用したり、都合の良いように解釈したり(確証バイアス)して、SNSなどで宣伝しています。
そのような商品を購入して治れば良いとは思いますが、色々試しても治らず悩んでいる方は沢山いらっしゃいます。
私は、「なるべく正しい情報を提供して、選択・活用できるようにサポートすることが大事」だと考えています。
実際、情報を読み解けないと区別をつけるのは難しいとは思いますが、「健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力(ヘルスリテラシー)」は勉強すれば身に着けることが出来ます。
これからの時代、AIによるフェイク情報がたくさん出てくることも考えられます。
なかなか治らない腰痛などの痛みでお悩みの方は、思考停止せず、魔法のような施術法やボディワークを探すことに執着せず、まずは
- 情報を集め
- 自分の病態や状態を知る
ことをして下さい。
かねた整骨院でもお手伝いしますので、必要なときはご相談ください。